東アジア文化専攻4年 酒井悠里さんの北京留学報告を掲載します。

                                                       留学報告     

                                                         07LL199   教養学部教養学科日本アジア文化専攻   酒井悠里

・はじめに
 私は埼玉大学4年の前期で休学をし、中国の北京へ国費留学をしてきました。期間は2010年9月から2012年8月までの二年間です。中国での日々の生活や勉強、また各国の友人との交流や、あちこちを旅したことは私にとって本当に貴重な経験となりました。留学の様子を紹介します。

・国費留学について
  私は中国政府奨学金を利用して留学しました。この制度は試験に合格すると、中国での学費、教材費、宿舎費、医療費が中国政府負担となり、さらに毎月1700元の生活費が支給されるというものです。出願にあたり、大学の成績と研究計画書、さらに教授の推薦文の提出が必要で、書類試験を通過すると面接試験が行われます。研究計画書には、卒業論文テーマの「伝統劇の現代化」について書き提出しました。
 中国での新学期は9月からなので、日本の大学とはズレが生じてしまいます。私は埼玉大学の4年前期で休学をし、9月から北京での新学期へ臨みました。中国政府の振り分けで、1年目は北京語言大学にて語学学習、2年目は中央美術学院の人文系美術史専攻に所属することに決定しました。

・北京語言大学
 留学1年目は北京語言大学での語学学習です。留学以前、私は少し中国語を勉強していたので、まったくゼロからのスタートではありませんでしたが、流暢に話ができるわけでもありませんでした。そのため不安も多く心配していたのですが、北京語言大学の毎日の中国語学習プログラムによって私の中国語はみるみる上達したと思います。
 北京語言大学の対外中国語教育は、中国内で一番です。スピーキング、リスニング、そして作文の授業がバランスよく組み込まれており、中国語を用いてグループワークやプレゼン、ディスカッションをするような授業もあります。また語言大学の特徴として、世界各国の人がクラスメイトとなることが挙げられます。私の場合、宿舎の相部屋はロシア人、授業でのペアがカンボジア人、グループ活動は韓国、アメリカ、ナイジェリア人など、挙げていてはきりがありませんが、毎日世界各国の人々と共に学び生活する経験は非常に刺激的なものでした。
 また授業以外でも、積極的に中国人学生と相互語学学習を行いました。一緒に食事するなどしてお互い言葉を教えあうのです。私は同世代の彼らとの学習やおしゃべりを通して、現代中国をより身近に感じ、理解していくことができました。
  このような中国語学習継続の成果で、中国語版TOEICと呼ばれる新HSKの最高級の6級に合格することができました。

・課外活動
 語言大学の授業は、たいてい午前中のみです。留学生には自由な時間がたくさんあります。私は太極拳や中国画の課外活動を行っていた他、研究のため図書館に通ったり、芝居を観たり、また美術館めぐりをするなどして過ごしました。
 語言大学の近くには、北京大学があります。授業が終わり時間が空くと、私は自転車で北京大学図書館まで行き、資料集めをしていました。卒業論文のための、中国でしか手に入らない資料を集めることに躍起になっていたのです。北京大学には古い雑誌がそろっています。ノートとデジカメでそれらを記録し持ち帰ってきました。また、北京大学付属の劇場では、私の研究テーマである革命模範劇や、その他伝統演劇、またあるときは現在流行の演劇、海外の劇団の凱旋公演がかわるがわる上演されており、それを観るのが楽しみでした。観劇に関しては、この北京大学の劇場のみならず、天安門近く建国門内にある国家大劇院や小劇場などにもしばしば足を運びました。この図書館や劇場に通う習慣は、2年目にも続きます。

・中央美術学院
 留学二年目は中央美術学院で勉強しました。中央美術学院とは、北京郊外の芸術区に隣接している中国一の美術大学です。私はこの大学で、人文系の美術史論専攻として1年間勉強しました。この学部は主に中国美術、世界美術の歴史や、美学、芸術学などについて学びます。また留学生向けに芸術中国語や現代中国社会についての授業などのクラスがありました。当然授業や教科書はすべて中国語なので、一年目の語言大学で学んだことを生かし、また訓練する機会が多かったように感じます。おかげで今では中国語の資料も難なく読めるようになりました。授業は講義形式が多く、比較的参加しやすかったです。はじめは中国人だけのなかに放り込まれることに非常に不安がありましたが、同級生たちは暖かく私を迎えてくれました。  
 また校内にも美術館があるほか、有名な芸術区798や草場地と隣接しており、芸術鑑賞には非常に良い環境です。しばしば芸術区に足を運び作品を見たり、また芸術家のアトリエを訪ねたりすることができました。作品鑑賞や芸術家との交流、たまにある大学での講演会の影響から、とくに現代アートへの関心が深まったように感じます。埼玉大学の先生や学生が北京にやってきた時は、一緒にアイウェイウェイをはじめとした中国を代表する芸術家をインタビューのため訪問したり、ギャラリーを回るなどフィールドワークを行ったりしました。また、清華大学で行われた学会に参加させていただいたこともあります。

・その他
 中国留学中、色々な場所へ旅をしました。中国国内では、内モンゴル、陝西、四川、雲南、天津、河北、河南、山西、山東、江蘇、安徽、上海、浙江、福建、広東など、3分の2くらいは制覇できたかと思います。旅は汽車で、何時間もかけて移動します。一番安い席にすると、向かい合わせの6人掛けに中国人とぎゅうぎゅうのすし詰め状態が長時間続きます。他にも安い寝台車や、安くて汚いバスで10時間以上かけた移動もありました。目的地に到着すると、ユースホステルを探します。男女混合八人部屋などをよく利用していました。これなら宿代は一泊あたり400円程度です。一人旅が多かったのですが、宿泊先で仲良くなった中国人や外国人と一緒に行動したりしました。
 さらに、台湾、韓国、東南アジアにも行きました。台湾へは展覧会の手伝いのため、韓国へは語言大学の同級生だった韓国人の友達を訪ねて、東南アジアへは北京の冬から逃げるためでした。東南アジアではまずベトナム、ホーチミンへ、そこからクチやヴィンロンなどをめぐり、そのあとカンボジア、プノンペンへ。クメールルージュめぐりをした後、シェムリアップへ移動し、アンコールワット遺跡を一週間ほどかけて見ました。最後にバスと船でコチャンへ抜け、数日滞在したのちバンコクまで行きました。

 ただふらふらしていた、といえばそれまでですが、留学生活をずっと北京で、また学生生活をずっと日本で過ごしていては分からなかったことがこの二年でたくさんありました。中国国内でも、少し都市を移動しただけで街の様子や人々の顔つき、食べ物や生活が全く異なります。中国13億人、それは漠然と、ただひとつであるように捉えてしまいがちですが、それぞれの都市や民族にははっきりと個性がありました。
 今まで私の関心は、「漠然としたイメージの中国」にしかありませんでした。しかし中国国内を見てまわったことで分かった文化や民族の多様さ、さらに近隣の台湾や韓国、東南アジアをたずねたことで自己の視野や考え方がぐっと広がり、多くの問題を世界規模で捉えられるようになったと思います。隣接する国の歴史、文化、政治、経済など、あらゆることは、大きな影響を与えあっており、国境や言語だけでは区切ることのできない、目に見えないつながりがたくさんあると感じました。
 これらは日本で学生生活を送っていては得られなかったものです。本やテレビ、インターネットで得られる情報は本当にごくわずかでさらにそれらが正確である保証もありません。自分で行動し、自分の目で見て、対話をして得られる知識や経験、そこから考えることが重要で一番確かなものであることを再確認しました。今回の留学は今後の私に大きな影響を与えると思います。非常に貴重な機会を与えていただけたこと、また後押ししてくださった皆さんに本当に感謝しています。

[写真] 左上:九寨溝にて   右上:艾未未さんと   左下:北京語言大学   右下:内モンゴル 
 

121015a.jpg

121015b.JPG121015c.jpg

121015d.jpg

埼玉大学教養学部

〒338-8570 
埼玉県さいたま市桜区下大久保255 

©Copyright Saitama University, All Rights Reserved.